産業医の定期健康診断・事後処置への関与

 

2002年の厚生労働省「労働者健康状況調査」によると;

 

定期健康診断を実施した事業所において、担当者がいる事業所の割合を担当者ごとにみると、

 

 福利厚生・人事労務等担当者が77.8%で最も高く、

 

 次いで衛生管理者又は衛生推進者等が49.1%、

 

 産業医が44.4%、

 

 保健師又は看護師が30.5%        となっています。

 

 

また、産業医を選任している事業所における定期健康診断への関わり方については

 

規模が大きいほど産業医の関与の割合が高い傾向にあり、

 

 「5,000人以上」規模の事業所においては、産業医の100%が関与していました。

 

 一方、「10~29人」規模の事業所では7割に満たないようです。

 

 

産業医の担当内容については、「健康診断結果の事後措置の相談」が最も高くなっています

産業医の健診後の事後措置  「健診は、受ければ終わりではありません」

 

個人にとって、健診は、受ければ終わりではありません

 

その結果に基づき、自分の健康を意識することのきっかけにすぎません。

 

健診後、結果後のactionが大切です。

 

 

 

一方、企業においても、健診は、受ければ終わりではありません

 

健診結果は、労働者へ通知してください。

 

健診は、事後措置が行われることに意義があります。

 

また、労働基準監督署へ報告書の提出も忘れずに。

 

 

 

労働安全衛生法においては、一般健康診断の結果

 

 特に健康の保持に努める必要があると医師等が認める労働者には、

 

 医師又は保健師による保健指導の努力義務が企業には課せられています。

保健指導の実施:労働安全衛生法66条の7

 

 

産業医は、健診結果により、

 

 通常の勤務でよい

 

 勤務を制限する必要がある、

 

 勤務を休む必要がある(休業)の判断を行います。

(医師による意見聴取:労働安全衛生法66条の4

 

 

勤務の制限・休業をする必要がある場合、

 

 産業医はその労働者からの意見聴取を行い、

 

 労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などを行うほか、管理監督者へ説明を行います。

 

また、医師等の意見を衛生委員会等へ報告します。

(就業上の措置の決定:労働安全衛生法66条の5

産業医と企業内産業保健サービス(企業の健康管理)と守秘義務

 

健康情報の保護に関して、

 

医師等については、法令(刑法第134条)で守秘義務が課されています。

 

 企業において健康診断や面接指導の実施に関する事務を取り扱う者に対しては、

 

労働安全衛生法第104条で守秘義務を課しています。

 

 

また、メンタルヘルスに関する個人情報については、

 

労働者の心の健康の保持増進のための指針

 

において、その保護のための配慮事項が定められています。

 

 

 

企業内産業保健サービスを始めるにあたっては、上記3点をしっかり従業員に提示することが大切です。

 

 

 

しかしながら、

 

産業医が事業者に対して、事業者が労働安全衛生法上必要な労働者の健康管理等を行うために必要な情報として知らせなければならない情報もあります。

 

 

一方、労働者の健康情報(個人情報)で産業医が知ったとしても、事業者などには開示すべきではない情報もあります。

 

 

 

産業医が得た労働者の健康情報一般について、

 

どの範囲で事業者やその従事者に開示することができるかについて明確でない点もあり、

 

この点については今後検討される必要があるとされています。

 

 

ここらへんのニュアンス(感覚)が、産業医と企業の担当者との「相性」のひとつでもあります。

派遣労働者の労災が3年で9倍!

産業医の気になるニュースです。  821230分配信 毎日新聞

 

 07年に労災で被災した派遣労働者(休業4日以上の死傷者数)は5885人(うち死者36人)に上り、製造業への派遣が解禁された04年に比べ約9倍に増加したことが20日、厚生労働省のまとめで分かった。

 

 厚労省が派遣労働者の労災件数を集計し明らかにしたのは初めて。日雇い派遣などの派遣労働者が十分な安全教育を受けないまま危険な業務に従事させられていることを裏付け、労働者派遣法改正の議論にも影響を与えそうだ。

 まとめによると、被災者数は04年の667人から年々増加。労働者全体の被災者数は04年が13万2248人、07年も13万1478人で派遣労働だけ被災者が急増している。派遣労働者数は04年の227万人から07年には321万人に増えたが、労災件数の伸びはそれを大きく上回っている。

 業種別では、製造業が2703人で最多。運輸交通316人商業308人貨物取り扱い127人--と続く。特に日雇い派遣が多いとされる貨物取り扱いや運輸交通での増加が目立つ。

 年代別では、30代が29%、20代が26・9%で、20~30代で過半数を占める。経験の少ない若年者が被災する例が多いとみられる。

 死亡労災では、「粉砕機の運転を停止せずに清掃して巻き込まれた」(食品製造)、「ドリルで穴あけ作業中につなぎが巻き込まれた」(機械機具製造)など安全教育の不十分さが原因とみられるケースがあった。

 派遣法を巡っては、秋の通常国会へ向けて厚労省が改正案の検討を進めている。日雇い派遣は原則禁止の方向だが、経営側からは「ニーズがあり一律禁止はなじまない」との意見が出され、禁止を求める労働側と対立している。

 派遣労働者が加入する労働組合「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は「日雇い派遣など派遣先が雇用に責任を持たない登録型派遣では、安全教育がどうしてもおろそかになる。組合には労災隠しの相談も数多く、この数字さえ氷山の一角と見ている。きちんとした法的規制が必要だ」と指摘している。

 

 

 

管理人産業医の感想

 

 管理人産業医は、(外資系)派遣会社での嘱託産業医もやっています。

  それを含めての感想です。

 

 企業の常勤社員に比べ、派遣社員は産業医的にも恵まれていないと感じることがあります。

 

 派遣社員はその派遣元の企業の管轄ですので、健診や産業医面談も派遣元がになうことになっています。

 

 つまり、派遣先企業は、その派遣社員の面倒をそこまでみる義務はありません

 

 結果、産業医との面談も、派遣社員には受けさせていない企業もあります。

 

 派遣社員が派遣元で、産業医面談等を希望する場合、結局、派遣先での勤務後になってしまいます。

 

 しかし、その時間(夜)では、派遣元企業もすでにclosedだったたり、その時間にあわせて勤務してくれる産業医が少ないのが現状です。

 

 

 

産業医からみた労働安全衛生法の歴史的背景

 

労働安全衛生法は、1972年に初めて制定されました。

 

その目的は、労働者の安全と健康の確保、および、快適職場環境の形成でした。

 

 

当時は、主に建設業や有機溶剤を扱うような危険作業が伴う業種を対象に考えられ、

 

事業者に対して「業務に直接起因する健康障害」の防止を課した内容でした。

 

 

その結果、産業構造上の変化と作業環境管理の強化により、

 

1980年代になると物理的な有害要因「業務に直接起因する健康障害」は減少しました。

 

 

 

1990年代になると、

 

過重労働・時間外労働などの問題が浮上し「過労死」が新たな社会的問題として出現しました。

 

日本人は仕事に生き仕事に死ぬと、 “Karousi”は世界共通語となりました。

 

Oxford Dictionaryにも載っています。

 

 

この結果、

 

いわゆる「業務に直接起因するとは言えないが、業務と密接な関係を有する健康障害」がクローズアップされてきました。

 

 

1990年代後半頃から労働行政の取り組みが強化され、過去10年では、ほぼ1年ごとに対策の指針が改正されています。

 

 

過重労働をクローズアップし、脳疾患・心疾患・精神的疾防止のための総合対策が整備されるようになりました。

産業医も気にかける最近の労働行政の取組み

 

最近の労働行政の取組み

 

 

199610      健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を策定

 

1999年9       「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」

 

2000年8       「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」

 

2001年4       労働時間の適正な把握の為に使用者が講ずべき措置に関する基準」

 

2001年12     脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」

 

2002年2       過重労働による健康障害防止の為の総合対策」

 

2003年5       「賃金不払い残業総合対策要領」「サービス残業解消対策指針」

 

2004年10     心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

 

2006年3       過重労働による健康障害防止のための総合対策について

 

 

以上より、最近の監督署の取締り強化・是正勧告急増の背景が見えてきませんか?

産業医と労働安全衛生法と安全配慮義務

 

労働安全衛生管理とは、

 

「労働安全衛生法を守ること」=「社員が安全で健康に働けるような会社を作ること」 

 

です。

 

 

 

企業は、労働者が心も体も健康で安心して働ける職場環境を作り、

 

更に個性や能力を発揮できるような配慮を求められています。

 

これが企業に求められている「安全配慮義務」です。

 

 

 

労働衛生の三管理(①~③)

 

+ 安全衛生管理体制(④)

 

+ 安全衛生教育(⑤)が安全衛生の枝葉となります。

 

+ ⑥は特に最近の重点事項です。

 

 

     作業環境管理・・・働きやすい環境を作ること

 

作業環境測定/評価、作業環境の維持/改善、職場巡視/定期自主検査

 

 

     作業管・・・理安全・快適な作業方法に工夫すること

 

労働衛生保護具の種類 /使用上の留意点、職業性疾病の予防

 

 

     健康管理・・・健康診断を前提として健康管理をすること

 

各種健康診断の実施、健康診断後の措置、健康の保持増進、中高年齢者等への配慮

 

 

④労働衛生管理体制・・・即座に対応できる社内の体制作りをすること

 

労働安全衛生管理体制の確立、(産業医/各管理者の選任、安全・衛生委員会の設置)、労働衛生管理計画/書類整備、情報の適正管理・活用

 

 

     労働衛生教育・・・健康管理に対しての知識習得・実践をさせること

 

各種労働衛生教育(法定/行政指導/その他)、計画及び進行

 

 

     重要事項への対応

 

過重労働対策、メンタルヘルス対策、復職者の支援

 

産業医からみた(安全)衛生委員会とは?

 

 難しく考えずに、簡単にいきましょう。

 (安全)衛生委員会とは?

 「社内を、安全で健康的に、そして快適に働くことができるよう、PlanDoCheckするCommittee

 です。

 

毎月委員会を開催し、議事録を作成します。

 

議事録は社員へ開示すると共に、

 

5年間保存することが必要です。

 

産業医からみた企業のリスクマネジメント

 

社員が職務時間中に怪我をした場合や病気になった場合、その多くは会社/管理職の安全配慮義務違反であるともいえます。

 

 

会社の安全配慮義務違反探しは、いつも問題発生後、過去にさかのぼって行われ始めます。

 

  例) ケガ・病気の原因と仕事の関連性はないか?

 

  例) 会社はどんな対策(安全配慮義務)をしていたか?

 

 

場合によっては行政訴訟/民事訴訟へ発展する可能性もあり、慎重な対応が必要です。

 

 

 

最近の労災認定訴訟から・・・、

 

  労災の請求件数ばかりか、認定件数も増加しています。

 

   特に、精神疾患(メンタルヘルス)関係で著明な増加が認められています。

 

   発症から5年後の請求に対し、時効後に労災が認定されたcaseもあります。

 

    また、退職後の自殺が労災として認定されたcaseもあります。

 

つまり、企業は、より「求められている」ということです。

 

 

 

このような時代の中、企業のリスク対策としては、

 

1.   労働安全衛生法の遵守は、最低限のリスク管理と心得る必要があります。

 

2.   健康管理規定や就業規則の整備が必要です。

 

3.   議事録/面談記録など、全て書面に残すことも必要です。

 

4.   従業員(およびご家族)の満足度を向上させる努力も必要です。

 

 

 

特に、4については管理監督者が日々できる安全配慮です。

 

問題の環境・状況を放置したり、社員の不満が積み重なったりしないように配慮することも、安全配慮義務と言えます。

 

 

管理者が不満を聞き入れるだけでも、職場への不満の蓄積を低下させることがあります。

 

会社としてのコミットメントが有用な場合もあります。

 

 

 

このように考えてみると

 

管理職の安全配慮義務というものは、

 

経費や時間をかけたりと難しいものではなく、

 

日々の中で、

 

いかに部下の変化や問題点に気づいてあげられるか、

 

そしてその問題に対して親身に対応できるか、

 

ということだと気づくと思います。

 

実際の産業医の職務

 

一般的に、産業医の仕事の内容は、概ね下記のとおりです。

 

 

1.         毎月1回、企業を訪問します。毎月1回の作業場巡視が定められています。

 

2.         従業員の定期健康診断の結果等に基づき従業員の健康状況の分析をします。

 

3.         必要に応じて、従業員と個別に面談を行い、健康管理指導を実施します。

 

最近の産業医による管理指導の中心は、生活習慣病の改善指導とメンタルケアです。

 

4.         必要に応じて、過重労働対策面談を実施します。

 

時間外・休日労働時間が1ヵ月当たり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合には、医師による面接指導を行うことが企業には義務付けられています。(注:平成204月以降は、50人未満の事業所にも適応されています。)

 

5.         必要に応じて、事業者に対して勧告、安全衛生管理者に対して指導・助言を行います。