派遣労働者の労災が3年で9倍!

産業医の気になるニュースです。  821230分配信 毎日新聞

 

 07年に労災で被災した派遣労働者(休業4日以上の死傷者数)は5885人(うち死者36人)に上り、製造業への派遣が解禁された04年に比べ約9倍に増加したことが20日、厚生労働省のまとめで分かった。

 

 厚労省が派遣労働者の労災件数を集計し明らかにしたのは初めて。日雇い派遣などの派遣労働者が十分な安全教育を受けないまま危険な業務に従事させられていることを裏付け、労働者派遣法改正の議論にも影響を与えそうだ。

 まとめによると、被災者数は04年の667人から年々増加。労働者全体の被災者数は04年が13万2248人、07年も13万1478人で派遣労働だけ被災者が急増している。派遣労働者数は04年の227万人から07年には321万人に増えたが、労災件数の伸びはそれを大きく上回っている。

 業種別では、製造業が2703人で最多。運輸交通316人商業308人貨物取り扱い127人--と続く。特に日雇い派遣が多いとされる貨物取り扱いや運輸交通での増加が目立つ。

 年代別では、30代が29%、20代が26・9%で、20~30代で過半数を占める。経験の少ない若年者が被災する例が多いとみられる。

 死亡労災では、「粉砕機の運転を停止せずに清掃して巻き込まれた」(食品製造)、「ドリルで穴あけ作業中につなぎが巻き込まれた」(機械機具製造)など安全教育の不十分さが原因とみられるケースがあった。

 派遣法を巡っては、秋の通常国会へ向けて厚労省が改正案の検討を進めている。日雇い派遣は原則禁止の方向だが、経営側からは「ニーズがあり一律禁止はなじまない」との意見が出され、禁止を求める労働側と対立している。

 派遣労働者が加入する労働組合「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は「日雇い派遣など派遣先が雇用に責任を持たない登録型派遣では、安全教育がどうしてもおろそかになる。組合には労災隠しの相談も数多く、この数字さえ氷山の一角と見ている。きちんとした法的規制が必要だ」と指摘している。

 

 

 

管理人産業医の感想

 

 管理人産業医は、(外資系)派遣会社での嘱託産業医もやっています。

  それを含めての感想です。

 

 企業の常勤社員に比べ、派遣社員は産業医的にも恵まれていないと感じることがあります。

 

 派遣社員はその派遣元の企業の管轄ですので、健診や産業医面談も派遣元がになうことになっています。

 

 つまり、派遣先企業は、その派遣社員の面倒をそこまでみる義務はありません

 

 結果、産業医との面談も、派遣社員には受けさせていない企業もあります。

 

 派遣社員が派遣元で、産業医面談等を希望する場合、結局、派遣先での勤務後になってしまいます。

 

 しかし、その時間(夜)では、派遣元企業もすでにclosedだったたり、その時間にあわせて勤務してくれる産業医が少ないのが現状です。

 

 

 

産業医からみた労働安全衛生法の歴史的背景

 

労働安全衛生法は、1972年に初めて制定されました。

 

その目的は、労働者の安全と健康の確保、および、快適職場環境の形成でした。

 

 

当時は、主に建設業や有機溶剤を扱うような危険作業が伴う業種を対象に考えられ、

 

事業者に対して「業務に直接起因する健康障害」の防止を課した内容でした。

 

 

その結果、産業構造上の変化と作業環境管理の強化により、

 

1980年代になると物理的な有害要因「業務に直接起因する健康障害」は減少しました。

 

 

 

1990年代になると、

 

過重労働・時間外労働などの問題が浮上し「過労死」が新たな社会的問題として出現しました。

 

日本人は仕事に生き仕事に死ぬと、 “Karousi”は世界共通語となりました。

 

Oxford Dictionaryにも載っています。

 

 

この結果、

 

いわゆる「業務に直接起因するとは言えないが、業務と密接な関係を有する健康障害」がクローズアップされてきました。

 

 

1990年代後半頃から労働行政の取り組みが強化され、過去10年では、ほぼ1年ごとに対策の指針が改正されています。

 

 

過重労働をクローズアップし、脳疾患・心疾患・精神的疾防止のための総合対策が整備されるようになりました。

産業医も気にかける最近の労働行政の取組み

 

最近の労働行政の取組み

 

 

199610      健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を策定

 

1999年9       「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」

 

2000年8       「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」

 

2001年4       労働時間の適正な把握の為に使用者が講ずべき措置に関する基準」

 

2001年12     脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」

 

2002年2       過重労働による健康障害防止の為の総合対策」

 

2003年5       「賃金不払い残業総合対策要領」「サービス残業解消対策指針」

 

2004年10     心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

 

2006年3       過重労働による健康障害防止のための総合対策について

 

 

以上より、最近の監督署の取締り強化・是正勧告急増の背景が見えてきませんか?

産業医と労働安全衛生法と安全配慮義務

 

労働安全衛生管理とは、

 

「労働安全衛生法を守ること」=「社員が安全で健康に働けるような会社を作ること」 

 

です。

 

 

 

企業は、労働者が心も体も健康で安心して働ける職場環境を作り、

 

更に個性や能力を発揮できるような配慮を求められています。

 

これが企業に求められている「安全配慮義務」です。

 

 

 

労働衛生の三管理(①~③)

 

+ 安全衛生管理体制(④)

 

+ 安全衛生教育(⑤)が安全衛生の枝葉となります。

 

+ ⑥は特に最近の重点事項です。

 

 

     作業環境管理・・・働きやすい環境を作ること

 

作業環境測定/評価、作業環境の維持/改善、職場巡視/定期自主検査

 

 

     作業管・・・理安全・快適な作業方法に工夫すること

 

労働衛生保護具の種類 /使用上の留意点、職業性疾病の予防

 

 

     健康管理・・・健康診断を前提として健康管理をすること

 

各種健康診断の実施、健康診断後の措置、健康の保持増進、中高年齢者等への配慮

 

 

④労働衛生管理体制・・・即座に対応できる社内の体制作りをすること

 

労働安全衛生管理体制の確立、(産業医/各管理者の選任、安全・衛生委員会の設置)、労働衛生管理計画/書類整備、情報の適正管理・活用

 

 

     労働衛生教育・・・健康管理に対しての知識習得・実践をさせること

 

各種労働衛生教育(法定/行政指導/その他)、計画及び進行

 

 

     重要事項への対応

 

過重労働対策、メンタルヘルス対策、復職者の支援

 

産業医からみた(安全)衛生委員会とは?

 

 難しく考えずに、簡単にいきましょう。

 (安全)衛生委員会とは?

 「社内を、安全で健康的に、そして快適に働くことができるよう、PlanDoCheckするCommittee

 です。

 

毎月委員会を開催し、議事録を作成します。

 

議事録は社員へ開示すると共に、

 

5年間保存することが必要です。

 

産業医からみた企業のリスクマネジメント

 

社員が職務時間中に怪我をした場合や病気になった場合、その多くは会社/管理職の安全配慮義務違反であるともいえます。

 

 

会社の安全配慮義務違反探しは、いつも問題発生後、過去にさかのぼって行われ始めます。

 

  例) ケガ・病気の原因と仕事の関連性はないか?

 

  例) 会社はどんな対策(安全配慮義務)をしていたか?

 

 

場合によっては行政訴訟/民事訴訟へ発展する可能性もあり、慎重な対応が必要です。

 

 

 

最近の労災認定訴訟から・・・、

 

  労災の請求件数ばかりか、認定件数も増加しています。

 

   特に、精神疾患(メンタルヘルス)関係で著明な増加が認められています。

 

   発症から5年後の請求に対し、時効後に労災が認定されたcaseもあります。

 

    また、退職後の自殺が労災として認定されたcaseもあります。

 

つまり、企業は、より「求められている」ということです。

 

 

 

このような時代の中、企業のリスク対策としては、

 

1.   労働安全衛生法の遵守は、最低限のリスク管理と心得る必要があります。

 

2.   健康管理規定や就業規則の整備が必要です。

 

3.   議事録/面談記録など、全て書面に残すことも必要です。

 

4.   従業員(およびご家族)の満足度を向上させる努力も必要です。

 

 

 

特に、4については管理監督者が日々できる安全配慮です。

 

問題の環境・状況を放置したり、社員の不満が積み重なったりしないように配慮することも、安全配慮義務と言えます。

 

 

管理者が不満を聞き入れるだけでも、職場への不満の蓄積を低下させることがあります。

 

会社としてのコミットメントが有用な場合もあります。

 

 

 

このように考えてみると

 

管理職の安全配慮義務というものは、

 

経費や時間をかけたりと難しいものではなく、

 

日々の中で、

 

いかに部下の変化や問題点に気づいてあげられるか、

 

そしてその問題に対して親身に対応できるか、

 

ということだと気づくと思います。

 

実際の産業医の職務

 

一般的に、産業医の仕事の内容は、概ね下記のとおりです。

 

 

1.         毎月1回、企業を訪問します。毎月1回の作業場巡視が定められています。

 

2.         従業員の定期健康診断の結果等に基づき従業員の健康状況の分析をします。

 

3.         必要に応じて、従業員と個別に面談を行い、健康管理指導を実施します。

 

最近の産業医による管理指導の中心は、生活習慣病の改善指導とメンタルケアです。

 

4.         必要に応じて、過重労働対策面談を実施します。

 

時間外・休日労働時間が1ヵ月当たり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合には、医師による面接指導を行うことが企業には義務付けられています。(注:平成204月以降は、50人未満の事業所にも適応されています。)

 

5.         必要に応じて、事業者に対して勧告、安全衛生管理者に対して指導・助言を行います。

 

 

産業医の職務の詳細

 

実際の産業医の職務内容は以下に関することなどがあります・・・

 

 1.健康診断、面接指導等の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等、労働者の健康管理に関すること。

 

 2.健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。

 

 3.労働衛生教育に関すること。

 

 4.労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

 

 5.長時間労働者に対する医師による面接指導などの実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。

 

 

 

 

産業医は、労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、

 

事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます。

 

 

 

また、産業医は、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、

 

作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、

 

直ちに、労働者の健康傷害を防止するため必要な措置を講じなければならないことになっています。

 

 

 

産業医の職務の内容は健康障害の予防と労働者の心身の健康保持、増進を図ることを目的とた広い範囲にわたるものです。

 

産業構造の変革労働者の高齢化IT技術の進展にともなう作業態様の変化、メンタルヘルス過重労働問題等社会情勢の変遷に対応して業務の重点項目も変動します。

 

また、健康情報管理の問題や事業者の健康配慮義務は、新しい法律の施行や裁判所の判例によって対策の在り方が変わってきます。

 

産業医は作業現場、社会情勢、関係法規、行政制度に精通して職務の遂行にあたることは当然ですが、

産業医の能力や権限で完結できる業務

産業保健スタッフの協力無くしては遂行出来ない業務や、

事業者の了解や協力を得なければ一歩も進まない業務があります。

 

上記のの業務は、産業一人に任せきらず、企業の担当者とともに、必要に応じて(健康管理やEAP等の)アウトソーシング会社も交えて「チーム」として行う必要があります

産業医と従業員・管理職・経営者との関わり① 従業員のパフォーマンスのために

 

産業医は、従業員のパフォーマンスのために働きます・・・

 

n       自身の体調を万全にするとともに、安全快適で働きやすい職場環境をめざします・・・

 

 

具体的には、 

  n       ①安全で快適な職場作り

 

  n       ②健康増進(心と体の健康)

 

  n       ③休職・復職・配置転換時の診断と対応

 

  

①快適職場の実現

 

従業員が能力を発揮するためには快適な職場環境を作る必要があります。

 

明るさ、温度、休憩設備などの物理的な問題、業務そのものに関する問題や、上司と部下、同僚との人間関係など、産業医は様々な側面の相談を受けます。

 

 

②健康増進

 

心身ともに健康であることは、就業する上でもっとも基本的な前提条件となります。

 

産業医は健康相談、健康教育など医師としての専門性を発揮し指導や助言を行います。

 

③休職・復職・配置転換時の診断

 

ケガや心疾患、脳疾患、うつ病など様々な健康上の理由で、業務内容や就業時間に何らかの配慮が必要になることがあります。 

 

産業医は本人の状態や希望を聞き、職場の上司、主治医などと協力して調整を行い必要であればアドバイスも行います。

産業医と従業員・管理職・経営者との関わり② 管理職のパフォーマンスのために

 

産業医は、管理職のパフォーマンスのために働きます・・・

 

n       「部署のパフォーマンス」と「管理職自身のパフォーマンス」のために・・・

 

n       快適な職場作り→部署の生産性向上のために・・・

 

n       管理職自身の健康も大切です・・・

 

 

具体的には、

 n       ①安全で快適な職場作り

 

 n   ②自身の健康増進(心と体の健康)

 

 n       ③休職・復職・配置転換時の診断と対応

 

 n       ④部下のメンタルヘルスと健康管理

 

 

①安全で快適な職場作り

 

 最近ではメンタルヘルスの観点からストレスの少ない職場作りの動きが活発になっています。

 

 ストレス環境の改善には業務内容や業務環境の見直しや、上司や同僚とのコミュニケーションの改善といった「職場作り」が必要です。

 

 産業医は社員との面談などを通して問題点の発見や改善提案をします。

 

 

②管理職自身の健康増進

 

生活習慣病は、長い年月を経て動脈硬化を進行させ、心臓発作や脳卒中などの致命的なイベントを起こす恐ろしい病気です。

 

しかしそれ自身は無症状であることが多く仕事が忙しいことを理由に軽視されがちです。

 

産業医は、健康診断結果のチェックや健康相談、正しい知識を伝えるための健康教育などによって職場の健康増進に貢献します。

 

 

③休職者と復職者への対応

 

管理職が最も頭を痛めるのが、休職者と復職者の対応です。

 

特に復職については業務内容や就業時間配置転換など、社内での継続的な支援を行うには理解とエネルギーが必要です。

 

しかし従業員本人と上司、経営陣など関係者の利害が一致せず、調整が難航することも少なくありません。

 

産業医は医学的な配慮を行うだけではなく、従業員本人とそこに関係する者、企業との現実的な妥協点を探ります。

 

 

④部下のメンタルヘルス

 

メンタルヘルスの問題は、職務上のミスや事故、遅刻や欠勤などの現象として現れます。

 

これらの初期症状にいち早く気づき、適切な対応と支援を行うことが管理職に求められています。

 

また、特に管理職(中間管理職)が高リスクを抱えていると自体が問題であることも多いです。

 

産業医による職場巡視や面談、管理職に対するメンタルヘルス講習は、早期発見と適切な対応を促す最良の方法です。